重機などの機械にはたくさんのボルトやナットが使用されています。
皆さん、ボルトなんてただの締結部品でしょ?なんて思っていませんか?
実は、ボルトは思わぬ大事故の原因にもなり得る重要な部品なのです。
なぜなら、ボルトの点検を怠ると、ボルトの緩みや破断によって、機械の部品が落下したり飛んでいったりする可能性があるからです。
私は大手重機メーカーで20年間油圧ショベルの設計に従事してきた経験を持つ専門家です。
この記事では安全に経済的に機械を使用するために、ボルトの重要性と点検方法について説明します。
この記事を読むことで、ボルトの重要性と正しい点検方法を理解し、思わぬ事故を防ぐことができます。
ボルトは一見地味な部品ですが、安全と経済性を左右する重要な役割を果たしています。定期的な点検を怠らないようにしましょう。
ボルトの重要性
なぜ重要なのか
●重要な部位にも使用されている
空飛ぶタイヤという映画をご存知でしょうか?この映画は、大型トラックのタイヤが外れて歩行中の親子の命を奪ってしまった事故を題材にしたものです。あの事故ではボルトが原因ではありませんでしたが、もしボルトが緩んでいた場合、同様の事故も起きうるのです。
他にもエンジンを支持する部位にもボルトは使用されています。エンジンが脱落したら大変ですよね。。
このように、ボルトはエンジンや車輪など、重要な部位の結合に使用されています。なぜそのような重要な部位にボルトが使われているのでしょうか?
なぜボルトを使うのか
●点検、修理、ひずみ、利便さ
- 重要部位であるが故に定期的な分解点検が必要
- 溶接による熱歪の影響を避ける
- 部品が大型になると製作や組み付けがしづらい
ボルトで結合された部品は、定期的に分解点検する必要があります。溶接で接合された部品は分解が難しいため、点検が疎かになりがちです。
溶接は熱によって金属を融かして接合するため、熱歪が発生しやすいという問題があります。ボルト締結であれば、熱歪を発生させずに接合することができます。
ボルト点検の重要性
ボルトは、異なる物同士を締め付けることでくっつけています。ボルトが緩むとその締め付けは弱くなり、くっついていた物が動き出します。すると、ボルトはその力をボルトの断面で受けることとなり、早期破断に至ります。
ボルトが破断したらどうなるか、想像できますよね。ボルトで押さえつけていた物は落下したり飛んで行ったりする可能性があります。
点検を怠るとどうなってしまうのか
●統計データ、エビデンス
全日本トラック協会が発表しているデータによると、大型トラックの脱落事故は年々増加しており、そのほとんどがボルトの緩みが原因であるそうです。タイヤ交換から2か月で8割もの脱落が発生しており、タイヤ交換の半数はユーザー自らによる作業のようです。
重機でもボルトの事故があります👇
たかがボルトと思われがちですが、トラックのタイヤの脱落事故おいては死亡事故にまで至ってしまっています。
ボルトの点検方法
締付けトルク確認がおすすめ
●点検方法はさまざま
ボルトの点検方法はさまざまあります。
- 目視点検、合いマーク
- 点検ハンマー
- ホイールナットマーカー
- トルクレンチ
目視点検、合いマークは一番簡易的に実施できる方法ですが、人間の目での確認ですのでミクロ単位での確認は難しいです。
あくまでも大きく緩んでないかという参考程度という認識が良いでしょう。
点検ハンマーについては音や振動によりボルトの締付け力が低下してないかを確認する方法ですが、こちらも人間の感覚に頼るところが大きく、またある程度熟練の方でないと難しいかもしれません。
ホイールナットマーカーは使用できる部位が限定されるのと、ボルトが回転することによる緩みしか確認できません。
ですのでこちらも合いマーク同様に大きく緩んでないかという参考程度という認識が良いでしょう。
トルクレンチはメーカーにより指定された締付けトルクにて再度締め付けることにより、ボルトの締付け力を直接確認できるのでこの中では一番確実な方法と思います。
但し、すべての部位で実施するとなるとかなりの労力を必要とすることが難点です。
ボルトの点検は、取扱説明書に記載されている点検部位を指定時間を目安に行いましょう。日常点検については合いマークやホイールナットマーカーが便利かもしれませんが、定期点検時にはトルクレンチによる確認がベストでしょう。また、一度取り外したボルトは再利用しないのが安全です。
ボルトの初期なじみ
基本的には締付け後の一定期間内に緩みます
●初期なじみ
ボルトには「初期なじみ」という現象があります。
規定のトルクで締め付けても、一定時間動作させるとなじみ分締め付け力が低下するのです。
ボルトというのはボルトの締付けることにより発生する摩擦力によって部品を固定しています。よって、初期なじみにより締付け力が低下すると部品を固定しておくための摩擦力が低下してしまいます。初期なじみはネジ部分や、ボルトやナットと締め付け対象物の接触面でも発生します。
鉄の表面というのは意外に凸凹しています。
ボルトを締め付けた時にも凸凹が潰れますが、その後機械を動かし外力が加わることで更に凸凹が馴染んでいくことがあり、これを初期なじみと言っています。
ですのでボルトを締め付け後、一定時間動かしたあとに増し締めをする事が重要です。
これによりボルトは当初の締付け力を取り戻します。
締付け時の注意点
接触面は綺麗に
●期待通りの締付け力が得られない
ボルトやナットを取り付ける際には接触面を綺麗にしておくことが大切です。ねじとねじが噛合う部分、ボルトの座面やナットの座面と被締付け物の接触部分などです。
錆びや異物などが無いように除去し清掃します。
これは前項の初期なじみでも申し上げたとおり、締付け力に影響するためです。
同じトルクで締め付けても発揮できる締付け力には違いが出てしまいますので、こちらも注意しましょう。
油類の塗布は要注意
●想定以上の締付け力が生じる
先に伝えた接触面は綺麗にしましょうという話とは反対に、ねじとねじが噛合う部分、ボルトの座面やナットの座面と被締付け物の接触部分などに油がついてしまったままで締め付けた場合には想定以上の締付け力が発生してしまいます。
想定以上の締付け力が発生しているとボルトが本来耐えることのできる荷重を超えてしまう場合もあり、変形や折損につながります。
メーカーの指定するトルクでボルトに発生する締付け力は、接触部分の潤滑条件を考慮したうえで規定していますので、メーカーが潤滑剤系の塗布を特筆していない限りは乾いた状態で締め付けるのが良いでしょう。
締め過ぎにも注意
●折れたり変形したりする
ボルトをめちゃくちゃな力で締めれば良いというわけではありません。過剰な締め付けはボルトや締め付け対象物にダメージを与えてしまう可能性があります。
- ボルトが伸びる: 想定以上の締付け力によりボルトが伸びて永久変形してしまうかもしれませんし、最悪折損します。また、締めた時は大丈夫でも機械を動かした時に外力が加わった時にボルトが折損する可能性があります。
- 被締付け物が凹む: 締め付けられる側の部材の材質などにもよりますが、基本はボルトよりも柔らかいことが大半です。被締付け物側が凹むと初期なじみの様に今後変形が進行する可能性があります。
良かれと思って締め付けたことが結果的にボルトの緩みや折損の原因になってしまうので注意しましょう。
まとめ
ボルトは、安全と経済性を左右する重要な部品です。定期的な点検を怠らないようにしましょう。
ボルトの点検は、専門知識や工具が必要となる場合があります。自身で点検するのが難しい場合は、整備士に依頼しましょう。
ボルト以外にも、ナットやワッシャーなどの締結部品も定期的に点検する必要があります。
ボルトは地味な部品ですが、安全運転と経済的な機械使用に欠かせない重要な役割を果たしています。ボルトの重要性と点検方法について、もっと詳しく知りたい方は、お気軽にお問い合わせください。
本ブログでは重機の代表格である油圧ショベルの基本的な仕組みについて詳しく掲載しているので興味があればご覧になってください↓↓↓
コメント