今回は油圧ショベルの構造についてもう少し詳しく説明していきます。
私は大手重機メーカーで20年間油圧ショベルの設計に従事してきました。どんな部品を使っているか、どんな仕組みなのかを理解しております。
この記事では油圧ショベルの設計者が油圧ショベルの全体の構造についてわかりやすく説明します。
この記事を読むと油圧ショベルの仕組みをもう少し深く理解することができます。これであたなも油圧ショベル博士!!
結論は、油圧ショベルは大きくは走る部位(下部走行体)、回る部位(上部旋回体)、仕事をする部位(作業装置)の3つに大別でき、機能別でみると動力、作業装置、旋回、走行、油圧、操縦、電気、潤滑、冷却の9つに分けることができ、それぞれに重要な役割をもっています。
モデル名称の表記
油圧ショベルのモデル名は各社色々な名前がありますが、基本的には同じようなルールで表記されています。
現在では油圧ショベルのモデル名はブランド名や製品分類、運転質量および補助記号で表記されます。
以前だと運転質量ではなく、バケット容量で表記されていましたが、現在ではほぼ運転質量での表記です。
以下に代表的なメーカーとモデル名の例を示します。
- CAT320DL・・・CATERPILLER
- R934B・・・LIEBHERR
- PC200-11・・・コマツ
- ZAXIS200-6・・・日立建機
- SK200-9・・・コベルコ建機
- SH200-7・・・住友建機
- CLG920C・・・中国柳工
- SY200C・・・三一重工
例えばCATERPILLER社の製品名”CAT320DL”でいうと、”CAT”がブランド名、”3″が製品分類(油圧ショベル)、”20″が運転質量20tクラス、”D”が世代、”L”がロングクローラー(長足)を示しています。
構造と作動原理
●3つに大別
標準的な油圧ショベルの全体構造は上部旋回体は通常360°旋回可能になっており、大きく以下の3つに大別できる。
- 上部旋回体
- 作業装置
- 下部走行体
部品の機能ごとに大別すると以下の通りになります。
- 動力システム
- 作業装置
- 旋回システム
- 走行システム
- 油圧システム
- 操縦システム
- 電気システム
- 潤滑システム
- 冷却システム
動力システムは概ねディーゼルエンジンを採用しているが、電力供給が便利な現場では電動機を動力源として採用するものもある。
作業装置とは主に最終的な仕事≒掘削作業をする装置であり、一般的にはブーム、アーム、バケットおよびそのリンク機構で構成される。用途に応じて各種アタッチメントを装備することも可能である。
上部旋回体と下部走行体は上記作業装置以外の部品の搭載プラットフォームである。旋回主フレームは旋回ベアリングを介し下部走行体上に設置され、その上に動力装置、トランスミッション、キャビン等のその他部品が設置されている。
油圧システムは油圧ポンプ、コントロールバルブ、油圧シリンダー、油圧モーター、油圧配管、作動油タンクなどのから成る。油圧を伝達するためにエンジンの動力を油圧ポンプで油圧動力に変え、油圧モーターや油圧シリンダーなどのアクチュエータに伝え作業装置などを動かし各種の作業を完了する。
電気システムは制御用コントローラー、エンジン制御システム、油圧システム、センサー、電磁弁などを含む。
動力システム
●主流はディーゼルエンジン
油圧ショベルの動力システムは一般的にディーゼルエンジンを採用しています。ほかにも電動機やハイブリッドを採用しているものもあります。
製品カタログに記載されている主な仕様に『定格出力』『定格回転数』『最大トルク』『排気量』などがある。
ディーゼルエンジンはほぼ全てターボチャージャー付きで高出力を実現している。(ターボチャージャーにより概ね20~30%出力アップ)ターボチャージャーの欠点としては負荷の変動に対する一定程度の応答遅れがあることである。また、ターボチャージャー搭載エンジンでは排気流を利用して吸気量を増加しているため、吸気温度が高温になるのでインタークーラーを装備していることが一般的である。
また、近年の排ガス規制対応によりEGRシステムやDPF、尿素SCRシステム等の対応を各社講じている。
作業装置
●バックホーとフロントローダー
- バックホーフロント
最もよく見る構造です。ブームシリンダー、ブーム、アームシリンダー、アーム、バケットシリンダー、H型リンク、I型リンク、バケットから構成されます。
各部品がリンク方式での接続され、接点を中心に回転運動をし、掘削などの作業をこなし、概ね地面より下側の掘削に向いています。
中型/大型機種はブームシリンダーがブーム下部に2本設置されていますが、小型機種ではブームの上部に1本設置された構造となっています。 - フロントローダーフロント
バックホーフロント同様にブームシリンダー、ブーム、アームシリンダー、アーム、バケットシリンダー、H型リンク、I型リンク、バケットから構成され、リンク方式での接続となっています。違いとしてはバケットの向きが上下逆となっており、アームシリンダー、バケットシリンダーの設置位置もそれぞれブーム、アームの下側に設置されています。概ね地面より上側の掘削に向いています。
旋回システム
●上下連結と回転
油圧ショベルの旋回ベアリングは上部旋回主フレームと下部走行体を接続しており、旋回装置を介して旋回動作が可能な構造となっています。
旋回ベアリングはボールベアリング式とローラーベアリング式の2種があります。
走行システム
●クローラ式とホイール式
油圧ショベルの走行システムは主に無限軌道のクローラ式とホイール式に大別され、クローラ式のショベルの方が多いです。ホイール式では車体の安定性向上の為にアウトリガーを設置するのが一般的です。
クローラ式の走行システムでは起動輪、遊動輪(アイドラー)、下部ローラー、上部ローラーおよびクローラ(履帯)で構成されます。
ホイール式は車両ナンバーを取得すると公道を走行することができます。
油圧システム
●電動化により半油圧システムが増加
基本的に油圧ショベルの作動部品はほぼ全て油圧駆動であり、全油圧システムと半油圧システムに大別される。作業装置、旋回システム、走行システムおよび操縦装置まで全て油圧駆動のものを全油圧システムと言い、全油圧システムの内一部の部分を機械駆動式や電気駆動式およびその他の方式を用いているものを半油圧システムという。
操縦システム
●油圧ショベルもパワステ付き
昔の機械式操縦システムは操作時に大きな力を必要とし、オペレーターに負担を強いることが欠点であり現在では用いられていない。現在では油圧パイロット式や電気パイロット式が主流である。イメージとしては昔はパワーステアリングのない車で現在はパワーステアリングの車と思って頂ければ良いと思います。
油圧パイロット式、電気パイロット式は操作時の力の負担軽減のみならず操作の精度も向上した。ただ強いて言えば油圧パイロット式は構造がやや複雑なことと部品の品質要求が高いことが欠点となる。
電気システム
●主回路、監視回路、コントロール回路
電気システムは電線とそれにつながる電気部品の集合です。電気回路の概ね主回路、監視回路、コントロール回路の3つに大別されます。
■主回路:主にエンジンを動かすものとそれに関連する付加物に関するもので、電源供給ラインということができます。主回路の主な6つの基本回路について説明します。
(1) 電源回路:電源回路はスタータースイッチ、バッテリー、ヒューズ、バッテリーリレー等機械上のすべての電気システムに電源を提供します。
(2) 起動回路:起動回路はスタータースイッチ、スターター、スターターリレー等、それが起動することにより電源が供給されエンジンが起動するものです。
(3) 予熱回路:予熱回路は主に気温が低い時にエンジンの起動を補助するもので、スタータースイッチ、コントローラー、冷却水スイッチ、グローリレー、グロープラグ等を含みます。
(4) 計器検査回路:全ての検査対象の計器類(警告灯等)のランプの点灯を検査する回路です。
(5) 充電回路:主に発電機を通してバッテリーに充電する回路のこと。
(6) エンジン停止回路:電気モーターを介しエンジンを停止する回路のこと。
■監視回路:監視回路はモニターおよびモニター動作状態および安全性や故障予知に対し使用されます。それらはモニター、センサおよびスイッチや自動警報システム等を含みます。
■コントロール回路:コントロール回路はエンジンコントロール回路、油圧ポンプおよび電磁弁コントロール回路を含みます。またその各コントロール回路はコントローラー、センサーおよび電磁弁やスイッチなどの動作をコントロールします。
■電気部品:油圧ショベルの電気機器は各コントローラー、スターターモータ、バッテリーおよびリレー、スターターリレー、照明やホーン、エアコン、各種センサー類等たくさんあります。なかでも人間の脳にあたる各種コントローラーは肝となる部品です。油圧ショベルはこの電子制御のおかげで性能や使いやすさが大きく変化してきました。いまではメカ・電気・油圧が一体となった技術が使用されており、各機能部品の自動制御やマッチング制御が日々成熟してきており、今後もこの技術の発展が重要な意味をもつことになるでしょう。
潤滑システム
●グリース潤滑とオイル潤滑
油圧ショベルの潤滑システムとしてはいくつかあり、代表的なものを以下に示す。
(1) エンジンの潤滑
(2) 油圧システムの各部品の内部の相対運動部品間の潤滑
(3) 走行機構の各動作部品の潤滑。駆動輪、アイドラー、下ローラー、上ローラーの各ピンや履帯のピンなど。
(4) ブームシリンダと旋回主フレームおよびブームシリンダとブームの連結ピン、ブームとアームの連結ピン、アームシリンダとブームの連結ピン、アームシリンダとアームの連結ピン、バケットシリンダとアームの連結ピン、I型リンクとアームの連結ピン、H型リンクとバケットの連結ピン、などの作業装置の各連結部位の潤滑。
(5) 旋回減速機、走行減速機、旋回ベアリングなどのその他機械。
潤滑方式としてはグリース潤滑とオイル潤滑の大きく2つに分けられます。更にいずれにも手動潤滑と自動潤滑とがある。
1.グリース潤滑
掘削機の作業特性によると、使用されるグリースの一般的な要件は次のとおりです:
(1)部品の極圧耐摩耗要件のを満たすために、主に低速、高負荷条件、特に旋回ベアリングは、重負荷装置に属し、より大きな負荷や衝撃を受けます。したがって、グリースには、良好な潤滑性を有するように、十分な膜厚を確保する必要があります。これにより、金属表面の摩耗、磨耗や破損を防ぐことができます。
(2)油圧ショベルは、多くの場合、泥、ほこりがある条件下で動作します。可動部は泥や水と接触しやすいので、潤滑グリースの要件は、錆びから機械を守るために、優れたグレードの耐食性と耐水性を持つ必要があります。
(3)四季を通して使用できる一般的な性能を持っている。油圧ショベルは広い地域、様々な気温下で使用されますが、特に寒い冬の作業でも潤滑性を保証できるように良好な低温流動性が求められます。
2.オイル潤滑
オイル潤滑の方が流動性、放熱性がよく、必要使用圧力は比較的低く一般に2MPa以下である。しかし、各潤滑部の流れをうまく制御しないと、環境を汚染しやすい。エンジン内部、油圧システム、旋回減速機や走行減速機などは、エンジンオイル、作動油、ギヤオイルなどのオイル潤滑に使用されています。
周囲温度が高い場合は粘度の高い油を使用し、逆に低い場合は粘度の低い油を使用する。一般に、作動油の粘度は、液体の流動抵抗を減らすために小さく、ギヤオイルの粘度は、より大きな伝達負荷に適応するために大きい。
油圧ショベルのオイル潤滑は、潤滑性能の特定の要件を使用すると、次のとおりです:
(1)適切な粘度が必要。粘度が大きいと、動きの抵抗、電力の無駄を増加させ、機械的な動きの精度、柔軟性、計算精度に影響を与えます。
粘度が小さいと、潤滑性能や密封性の要件を満たすことができません。
(2)良好な腐食抑制、防錆特性を有する。油圧ショベルは、屋外で使用されることが大半なので、長期的に風雨や日光に晒されます。その為、良好な防錆性を持っている必要があります。
(3)良好な耐摩耗性を有する。油圧ショベルの負荷の変化は非常に大きく、運動の方向が頻繁に変化し、振動や衝撃が深刻である。これは潤滑オイルの油膜形成に不利なので、潤滑オイルには必要な耐摩耗性と耐摩耗性と極圧性が要求される。
(4)良好な耐水性を有する。潤滑油は、良好な耐乳化性と水分離性を持っている必要があります。
(5)良好なシール性能。潤滑油には,異物の侵入を防止するため,良好なシール性能とシール材との融和性が要求される。
3.自動潤滑システム
油圧ショベルを含む建設機械では、自動潤滑システムを採用しているものがある。
先進的な自動潤滑システムは、コントローラを介してポンプの制御をし、定期的に一定の間隔で、定量的に必要な部品に順次グリースを供給する。
この自動潤滑システムには、次のような特徴があります:
(1)うっかり給脂を忘れた等の人のポカミスを防止でき、定期的に一定の間隔で、定量的にグリースの供給をすることができる。
(2)潤滑サイクルが正確であり、定量的なグリース供給は、グリースを節約し、環境汚染も低減する。
(3)コンパクトな構造、配置、点検、メンテナンスが容易。
(4)部品の寿命を延長し、メンテナンスコストを低減する。
(5)故障警報機能があり、潤滑システムを全プロセスで監視できる。
冷却システム
●冷却は潤滑のためにするもの
エンジンと歯車駆動機構の潤滑システムは主に潤滑油に依存しており、油圧システムの動力伝達媒体である作動油も潤滑の役割も果たしている。これら2種類の流体の粘度は温度に大きく影響される。
周囲温度が低いと、オイルの粘度が高くなり、内部の作動抵抗が増加し、エンジンの始動が困難になったり、油圧ポンプの吸引が困難になったりする。
周囲温度が高いか、システムの動力損失が大きい場合、油温の上昇によってオイルの粘度が低下し、シール性能が低下し、オイル漏れが増加し、効率がさらに低下する。
温度の上昇は、ほかにも多くの悪影響をもたらし、部品の老化、損傷を引き起こし、機械の寿命を縮める。したがって、油温は高すぎても低すぎてもだめで、適切な範囲で潤滑システムや作動油の温度を制御することが必要です。
そのために冷却システムが搭載されています。
冷却システムとしては主にエンジンの冷却水の冷却システムと、作動油の冷却システムがあります。
■冷却水冷却システム:
エンジンの熱源は主に燃焼室から発生する高温ガスである。一般的なエンジン冷却システムは、ウォータポンプ、ウォータジャケット、ラジエータ、ファンなどで構成されています。エンジン冷却システムの詳細な紹介は、自動車の専門書に任せて割愛させて頂きます。
■作動油冷却システム:
油圧ショベルは頻繁な負荷の変化、長時間の作業により、あらゆる種類のエネルギー損失が熱に変換されます。
油圧システムの発熱は油圧ポンプやバルブ、配管および他の油圧部品の相対的な動きによる摩擦により発生します。
適当な作動油温度上昇は油圧システムには良い影響をもたらしますが、度を超えた温度上昇はシステムに悪影響を及ぼします。
一般的に、油圧システムの適切な動作温度範囲は30~50℃(最大70℃、最小15℃)である。しかし、周囲温度や自身の熱などの要因により、実際の動作温度はこの範囲内に確保することは困難である。
■クーラーの基本要件:
(1) 放熱効率が高く、十分な放熱面積がある。
(2)圧力損失が小さく、エンジンパワーをあまり消費しないこと。
(3)限られた設置スペースに設置でき、機械の重量を増加させすぎないよう、サイズと質量が小さいこと。
(4)適切な範囲内の油温制御ができるように、温度制御装置を有する。
クーラーは一般的に空冷式が多く採用される
現在の主流はアルミや銅製のフィン式のクーラーで、この方式はコンパクトな構造で低コスト、錆びづらく放熱性能も良い。
建設機械で使用される従来の冷却ファン駆動方式は一般にファンベルトを介し、エンジン駆動シャフトの回転によって冷却ファンを駆動するが、この方式は駆動方式の制限により、ファンの設置位置が制限され、放熱器の設置位置も制限される。
このベルト駆動方式は、ファンの冷却能力はエンジン回転数に依存し、エンジンの熱状態や周囲温度の変化に応じて自動的に変化させることができないため、低速大負荷作業や高速小中負荷作業で過冷却現象が発生した場合、実際の冷却のニーズを十分に満たすことができず、冷却能力の不足が避けられない。
また、この冷却方式の冷却能力は、最大熱負荷条件に従って設計されているため、始動トルクが大きい、暖気運転時間が長い、ファンのエネルギー消費が大きいなどの欠点もあります。
上記の欠点を克服するために、現在では油圧駆動式の冷却装置が増加しており、それは作動油温度を検知し、冷却ファンの回転数を制御する。同時にこの油温制御方法を使用して冷却能力が余分であるとき冷却ファンの回転を抑え、暖気運転の時間を短くさせます。
まとめ
このように、油圧ショベルは大きくは走る部位(下部走行体)、回る部位(上部旋回体)、仕事をする部位(作業装置)の3つに大別でき、機能別でみると動力、作業装置、旋回、走行、油圧、操縦、電気、潤滑、冷却の9つに分けることができ、それぞれに重要な役割をもっています。
今回は油圧ショベルの全体構造について少し詳しく説明しました。皆さんが今までより油圧ショベルに興味をもって頂けたなら幸いです。
本ブログでは重機の代表格である油圧ショベルの基本的な仕組みについてさらに詳しく掲載しているので興味があればご覧になってください↓↓↓
コメント